時計の針が日付が変わった事を教えた頃、羽織に甚平姿の男と、艶やかな黒髪に、浅黒い褐色の肌がよく見える露出度の高い女が、浦原商店の居間で二人中睦まじく、残り物のクッキーを貪っていた。 「なかなか旨いもんじゃな、喜助」 「そうでしょう?クッキーミックスっていうのを使ったらしいッスよ?」 「そうとは言え、凝っておるではないか。ココア味に、これはチョコチップというものであろう?」 珍しげにひよ里が作ったチョコチップの入った星型クッキーを蛍光灯の明かりにかざして繁々と見つめた。 「昔から、不器用そうに見えて、こういうのはサラリとこなしてましたからねぇ、彼女。よく、飯を食え、飯を食えとドヤされたものッス」 研究に没頭するあまり食べる事や寝る事を忘れてしまった隊士たちを、叱り飛ばしながらもよく世話をやいていたっけ・・・。 昔を懐かしむような目をして、クスリと笑った。 「さすがは、お主の副官だった娘よのう」 「あら?夜一さん、焼きもちですか?」 「ぬかせ」 そういうと、特に顔色を変えることもせず、夜一は手に持ったクッキーをバクバクと一気に食べた。 「で、平子は何をしにお主の所に来ておったのじゃ?まさか猿柿の待ち伏せではあるまい?」 「気になりますか?」 「興味はある」 褐色の肌によく映える金色の瞳が期待の色を浮かべて喜助をみつめる。 「大した事じゃないっスよ?黒崎サンは破面と対峙して大けがを負ってしまったということを言い来ただけッス」 「なんじゃ、つまらぬ」 どうやら彼女が思っていた事では全くないようで、すぐに興味を失ってつまらなそうな顔をした。 「あと、ひよ里サンがもしアタシの所に来る事があったら頼むって」 自分たちには言いにくい事でも、お前には言うかもしれないからと、やるせない顔をした真子の顔が脳裏に浮かんだ。 いつも彼らは自分の事よりも仲間の事を真っ先に考え大切にする。 それが時々空回りしているので、放っておけない。 「情けないのう、あの男も!」 カラカラと夜一は笑った。 「器用そうに見えるのに、ひよ里サンの事になると不器用な人ッスからねぇ」 でも、まぁ、あの二人は大丈夫でしょう。 しみじみと少しだけ淋しそうな顔をして笑った。 「なんじゃ?その顔は」 「何か変な顔でもしてました?」 「しておったから、聞いておる」 夜一はもう一枚クッキーを手に取って、喜助の口の方へと持っていく。 それを受け取り、さくっと一口食べてから 「娘を嫁に出す父親の心境ッスかねぇ?」 「寂しいということか?」 「まぁ、そうっすね」 ハハっと乾いた笑いをした喜助の目を夜一はじっと見つめる。 いつも何かを憂いているような、その瞳を。 そして、頬に手を当てる。 「・・・わしが、おるぞ、喜助」 いつも、傍に。 例えば、お前が変わるような事があっても。 例えば、この世界が壊れようとも。 何があっても。 絶対に、離れることは無いだろう。 しかし、それは言葉にしないように、夜一はその想いを飲み込む。 言葉の代わりに、男の唇の横に誓いを立てる様に口づける。 喜助の顔から少し離れて、その顔をのぞきこむと、とても嬉しそうに目を細めて言った。 「そうッスね。アタシにはあなたがいる」 だから、きっと、大丈夫―――――――。
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