偶にはやり方を変えてみよう  〜ほのぼの10題〜


手を繋いで帰ろう    (平子×ひよ里 2012.01.16)  /   背中合わせ   /   ぎゅうううう  (大前田×砕蜂 2012.01.16

はじめての記念  /  一緒にお昼寝
  (子ギン×子乱菊 2012.01.16)  /  
まるでりんごのような

結局はのろけ話  /  あじみ  /  こっち見てよ (拳西←白 2012.04.24 /  偶にはやり方を変えてみよう

お題提供 九鳥 様

手を繋いで帰ろう  〜甘えん坊の平子さんとほっとけない猿柿さん〜


 今日は今年一番の冷え込みだという。

 どうりでいつも以上に寒い筈だと思いながら、茶色のコートに身を包んだ平子は背中を丸め、細身のパンツのポケットに手を突っ込んで隠れ家へと繋がるアスファルトの道を独りで歩いていた。どこかに行っていたわけでもない。目的も無くその辺を散歩していただけだった。川の流れをみたり、道行く通行人を眺めたり、小鳥の囀りを聴いたり。ただ、ぼんやりとする時間を過ごす。

 長い、長い、人生。時には立ち止まってぼぉっとするのも良いのだろう。走り続けていれば、いずれ息切れを起こしてしまうから。空を仰ぎ、かっこいいコトを考えて自分に酔ってみる。(恥ずかしいだけだった)
 それにしても。


 ――寒すぎやろ。も、ええ加減帰ろ。


 膚を刺すような寒さに耳が痛くなる。
顎のラインの所まで伸びている金髪の髪は丁度彼の耳を隠しているものの、残念ながら防寒の役目は果たさない。短髪の拳西や、八弦のように(ラブは頭がアレでなければ毛は長いのではないかと思う)耳が出てないだけましか・・・と、思いつつも、肩をすくめ、マフラーで口元を隠す。タータンチェックのマフラーが耳に触れてなんとなく寒さが和らいだ気がした。

 と、その時。

 視界の端っこで赤いモノとすれ違った。うん?と思い、平子はそのすれちがってあろう場所を振り返ってみた。

「・・・気いつくの遅ないか?ハゲ」

 ブロック塀に背中を預け、口をへの字に曲げたままこちらをひよ里が見ていた。いつものジャージの上に、赤いコートを羽織って、さすがに寒いのかいつも膝まで折り曲げているジャージのズボンの裾は伸ばしてあり、素足にビーチサンダルでは無くて運動靴を履いていた。ずっと外に居たのか、頬と、鼻の上が赤くなっていて、幼さを強調しているようだった。それにしても、

「こないなところで何してんねん、子猿」

 吐く息は、白い。

「どうでもええやろ」

「そりゃ、どうでもええけど」

 ふむ。と、また平子は空を見上げた。雲ひとつない空は、とても高いところにあって、とても綺麗な青色で、とても澄んでいた。視線を戻す。

「まだ、其処に居てんのか?」

「帰るわ」

「ほな、一緒に帰るか?」

「なんでわざわざ一緒に帰らなあかんねん」

「帰る方向一緒やんけ」

 ちっと舌打ちを打つ音が聞こえた。
 
まったく彼女は素直では無いというか、照れ屋なのか。一緒に肩を並べて歩くというのが恥ずかしいのか、昔のくせなのか、ほんの少しだけ後ろに下がってひよ里はついて来る。今だって、ほら。前を向いて歩き始めたのを見計らってから、静かに平子の後ろをついて来る。薄眼でチラリと後ろに居るひよ里を見ると、どうも平子の後頭部を睨んでいたらしい、その大きな瞳と視線が重なった。ひよ里は勢いよくバッと視線をずらす。やれやれ、と平子はため息をひとつついてから、パンツのポケットに突っこんでいた左手をヒラヒラとさせる。

「あー。なんか、淋しいな―。左手が淋しいなー。誰か手、繋いで欲しいなァ」

 わざとらしく言ってみる。もちろん、あえてひよ里に聞こえるように。

「手、繋いでくれへんかったら、凍傷になってまうかもしれへんなァ。今日寒いし」

「なるか!そこまで寒ないわ」

 アホか!とひよ里の罵声が後ろから飛んできた。平子はそんなことお構いなく続ける。

「ああ、手を繋いで欲しい。誰かさんに手を繋いでもらえたら嬉しいんやけど」

「誰でもええんやないんか」

「誰でもええわけないの知ってるくせに。性格悪」

「お前に人の性格についてとやかく言われたないわ。お前は極悪やんけ」

「ひっど。んま、その通りやけど」

「認めんのかい」

「間違っては無いし」と、平子は自虐的な発言をして、さらに続ける。

「ほんで、オレ、金髪のウサギさんみたいな髪型のちんまい女の子に手ぇ繋いで欲しいんやけど、どうやろか、そこの人」

「まわりくど」

 鼻白むひよ里。

「そこがええんやないの」

「アホか」

「ほな、もうええわ。ひとり淋しく帰ります」

 ちぇ、と、いじける様にして背中を丸めて歩き始めた平子を見て、ひよ里のイライラもやもやは頂点に達する。

「あー、もう、鬱陶しい。これでええんやろ?これで」

 半ばやけくそで言いながら、乱暴にひよ里は手を繋いできた。元から赤かったそばかすのある頬を更に赤らめて。思わず平子の顔が綻ぶ。空気はとても冷たい筈なのに、その場を包む空気はなんだかとても温かい気がした。

 
 隠れ家へと続く道。

 キミと歩く、黒い、アスファルトの道。


「等価交換や。鯛焼きこうてや。真子」

「・・・等価交換って、どこの錬金術師やねん」

「この行いに対する対価を払えっちゅうことや。その対価っちゅーのも難しいねんで。与えすぎても、与えられすぎてもあかんねん」

「ほな、そう言う理論ならひよ里はもっと色々とオレに与えてくれてもええ思う」

「なんやと?!」

「・・・いや、なんも。ほな、鯛焼き買うたるから、」


 手を繋いで一緒に帰ろう。

 ボクとキミが還るべき場所へ。

△上へ


背中合わせ


ぎゅうううう 
〜素直じゃない砕蜂さんとそこが好きな大前田さん〜


「なんだ、これは」


 ここは二番隊舎内。隊長執務室。

 今日は特にこれといった任務も下されることも無く、緩やかな一日を砕蜂は送っていた。

 しばらく事務慮理に没頭していると、砕蜂よりも一回り以上も縦にも横にもでかい副官が「お茶にしましょう」と言いながらお茶と、お茶受けと、その隣に手のひらサイズの赤いリボンを付けた黒猫のぬいぐるみをちょこんと置いたのだった。普段、何事にも微動だにしない砕蜂は僅かに眉を顰めた。

「見てわかりませんか?黒猫っす。黒猫のぬいぐるみっす」

 現世ではわりと人気のようですよ。と、副官は付け加える。どうやら何かのキャラクターのようだった。しかし、砕蜂はそんなことを訊いているのではない。

「そんなことはわかっている。何のためにこんなものを私に寄こしたのだと、」

「あー、隊長が好きそうだなって思ってね。現世に行ってた隊士に買ってきてもらったんスよ」

 少々下品な笑みを浮かべて副官は砕蜂を観察するように見た。副官はとてもよく知っている。砕蜂が別にぬいぐるみに興味は持たないことを。
でも。
 黒猫となれば別だろう。
黒猫は、彼女が愛してやまないあの人。敬愛するあの人の仮の姿の象徴だから。

「別に、私は、このようなもの、好きではっ」

 そう言いながら、切りそろえられた黒い前髪の下、切れ長の黒目がちの瞳はキラキラと輝いている。しかし、砕蜂は、欲しくても欲しいとは言えない。自らを常に抑制しながら生きてきた、それまでの生い立ちがそうさせるのか、ただ単に性格の問題なのか。

 今だって、きっと喉から手が出るほど欲しがっているだろうに、素直になれない。

「隊長、嘘ついちゃダメっすよ。目がもうらんらんとしてますから」

「貴様!私を子ども扱いする気か!」

「いや、してねぇじゃないですか。いってぇ!あぁ、もう、いきなり蹴んないでくださいよ。痛いでしょうが」

「うるさい。うるさい。黙れ、大前田!」
 照れの裏返しなのかビュビュと空気を切り裂くような音を出しながら砕蜂は副官の太い脚に蹴りを繰り出す。
やれやれ、めんどくせぇと副官は嘆くしかない。

「じゃ、いりませんね。わかりました」

 ため息交じりに呆れたようにいうと、すいと砕蜂の机の上に置かれたままの黒猫のぬいぐるみを取り上げた。

 すると。


「あっ」


 砕蜂は蹴る事も忘れ、小さく酷く残念そうにつぶやいた。
その、小さな小さな声を地獄耳の副官は聴き逃さない。目を細めて副官は小柄な砕蜂に再度訊く。

「いらないんすよね?これ」

「・・・・・・」

「ああ、残念だなァ。本当に、残念だなァ」

 少し大袈裟に残念がってみた。俯き、お互い暫く黙ったままになり、必然的に沈黙が訪れる。カチカチと柱時計の時を刻む音がやけに煩く聞こえていたが、急にボーンと鳴り始めた。午後三時を知らせる音だった。その音が合図となった。

「き、き、貴様がッ」

 小さな肩をプルプルと砕蜂は震わせ、顔を真っ赤に染めて、

「どうしてもと、言うのなら、もらってやる」

 副官の手の中にあった黒猫のぬいぐるみを奪うようにとると、副官に背を向るようにして立つ。そんな砕蜂のことを、可愛らしいなァと思い、背後からぎゅっと抱きしめてやりたくなるような衝動を抑えて、小さな隊長の背中に話しかける。


「ええ、そうっす。どうしても、貰ってください」


 砕蜂は、それに返事をする代わりに、黒猫のぬいぐるみをぎゅううっと抱きしめた。

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 はじめての記念


 

一緒にお昼寝 
〜子ギンと子乱菊〜


 暦の上では春を迎えたものの、未だ寒い日が続いていたある日。その日の朝方は本当に寒かった。掛けていた襤褸切れだけではその寒さは防ぎようもないから、いつも二人抱き合うようにして寝ていたのだが、その日はそれもままならず、寒さで二人とも目が覚めてしまった。

 その分、その日の昼間はとても暖かかった。寝不足だった二人は、ボロく小汚い小屋の前で二人並んで座って、僅かな食料を、二人で分け合って食べる。

この日の昼飯となったのは干し芋一つだけ。もちろん、それだけで腹なんて膨れる筈は無い。けれど、少年も、少女も文句も言わずにソレを口にする。

「おいしいねギン」

「せやね」

 そんなやり取りをしながら大切にその食べ物を咀嚼する。


 明日はふきのとうを探しに行こな。もしかしたらもう採れるかもしれへんよ。
もう少し暖かくなれば、じきに筑紫の子が顔を出し始める。ぜんまいや、わらびや、山菜が豊富にとれるようになる。すぐに腹いっぱいに食べられるようになれるからもう少しの辛抱やで、乱菊、とギンと呼ばれる少年は笑顔のまま乱菊という少女にいっぱい話した。

 乱菊は、うんうんと頷きながら、早く暖かくなればいいのにねと言う。綺麗な山吹色の肩までの髪を揺らしながら。薄汚れた着物を着ていてもこの少女は美しかった。

 ギンと呼ばれる少年は、そんな少女の傍に居られることが幸せだった。

 乱菊と呼ばれる少女も、そんな少年の傍に居られることが幸せだった。


 雨風がなんとかしのげれる様な粗末な小屋で、ボロボロの着物を着て、ボロ布ようなもの被って寄り添うように寝て、満足に食べ物が食べられなくても、幸せだった。
誰もが可哀相と同情するだろう境遇だったが、二人は幸せだった。少年と少女、二人だけの世界。誰にも干渉される事のない世界。

 いつまでも、いつまでも、続いて欲しいと二人が願う世界。



 優しい風が少年の頬を撫でた。
サラリと少女の髪がギンの顎をかすめる。気がつけば少女は、すぅすぅと心地よさげな寝息をたてて少年の肩に寄りかかる様にして眠ってしまっていた。

少女の寝顔をみた少年は、ふんわりと微笑んだ後、その少女の頭に少し寄りかかる様にして、ぼんやりと空を眺めた。乱菊に釣られて、なんやボクもねむなってきたな、と少年は思いながら、欠伸を一つする。


うつらうつらとしながら少年が見上げた空は、抜けるような青空だった。

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まるでりんごのような


結局はのろけ話  


あじみ  


こっち見てよ
〜拳西がとっても大好きなましろちゃん〜

拳西はあたしの憧れだった。

拳西の後ろを付き従うことがあたしの夢で幸せだった。

あたしにとって拳西が一番だったんだ。一番輝いて見えてた。彼と同じ隊長格の年の近い、シンジやラブ、同じ副隊長のソースケだって、拳西に比べれば、やっぱりたいしたことないと思った。あたしには輝いて見えなかった。拳西に比べたらみんな見劣りして見えてた。

もちろん、それはあたしが思うだけで、リサリンは自分の隊長に言いこそしないけれど心酔しているようだったし、ひよりんは何かっていうとシンジに突っかかって、構ってもらえれば嬉しそうだったし、人によって一番な人は違うのもよく知っているけどね。

あたしは、彼の背中を目指してた。白打も頑張った。鬼道も瞬歩だって結構いい線いっていると思う。もちろん死神の素養ばかりを備えるのも女の子としてどうかと思ったから、頭の先から爪の先まで手入れも怠らない。虚と戦うせいで身体には小さな痣や切り傷もあったけれど、それは死覇装が隠してくれるから大丈夫。刀を握る手だけはどうしてもカサカサになりやすい。それだけが残念だったけど、外は完ぺきだったと思う。

「すごいねましろちゃん」「さすがだね久南さん」何も知らない子たちは、そうやってあたしを口々に褒めていた。

九番隊の副隊長に任命された時は、本当に嬉しかったんだ。

大喜びせずに「えー? 拳西の副官―?」と不服そうに口を尖らせてしまったのは、自然に頬が緩んできてしまうから。そうしてないと、涙が出そうだったからなんだよ。

ぜんぶ拳西のそばにいるため。彼のそばにいても見劣りしないようにするためだった。もちろん、そんなそぶりは見せないようにしたよ。だって、こんなの重たいもん。
 だけど、そろそろ限界みたい。

 拳西の後ろにさえいることができれば、あたしは幸せなんだと思ってた。

この気持ちを拳西に伝えなくても大丈夫だって。ずっと、ずっと、そう思ってた。

 でも。最近、それじゃダメなんだ。そばにいれるのに、誰よりも近いはずなのに、辛いんだ。苦しいんだよ。

 どうしよう。どうすればいいのかな?

あたし、どんどん我がままになっていくみたい。

 ねぇ。拳西。
 あたしの目の前を歩く袖のない死覇装を纏った彼に心の中で呼び掛ける。心の中でそんなこと言ったって届かないのに。それでも。
 ねぇ。

こっちをむいてよ。
 あたしを見て欲しいよ。


 ***


「バカかてめぇは」

 拳西は呆れた顔であたしのほっぺたをぐいぐい抓る。とっても痛い。というか、ひどい。

 抓られた頬を擦りながら涙目で抗議する。

「痛い! 拳西のバカバカ! おこりんぼぉ! なんでほっぺた抓んの!?」

「バレてねぇとでも、思ってんのかよ」

 あぁ? と怒ったように言われた。

「なんのことかわっかんない」

「隠しても、いろいろバレてんだよ。ったく面倒くせぇ女だな」

「……」

 拳西の眉間に縦皺が増える。

 あーあ。ダメじゃん、あたし。気持ちバレバレじゃん。

 合わせる顔がなくて、下唇をかんで俯くと、拳西のごつごつした大きな手があたしの顔を挟んで無理やり上を向かせた。

「ましろ」

いつもみたいに怒鳴る時よりも、低くて真剣な声。権勢の鋭い瞳はあたしを映す。

お願いやめて。

そんな声であたしの名前を呼ばないで。そんな瞳であたしを見つめないで。どうすればいいかわからなくなるから。胸が潰れそうで、息をするのも苦しくなるから。

だから――。

ずっと目を合わせていることは辛くて、逃げるように視線を横に流すと、はぁ、と拳西のため息が聞こえた。

「てめぇが気がついてねぇだけなんだよ」

「拳西?」

「いいか? よく聞けよ。オレはお前が――、」

ぶっきら棒な科白のあとに続いた言葉は、ひどく優しかった。



△上へ


偶にはやり方を変えてみよう