オレな、死ぬとか生きるとか結構どうでもええことやってん。別にとっとと死にたいとか思ってたわけやないんやで? ただ、生きるっちゅーことに執着はしてへんかったなァ。執着するということ自体を避けてたようにも思うわ。
オレの方が長いこと生きてたし、経験も豊富や。女とお付き合いやってしたことある。 せやけど、こんなにこの胸の奥を焦がせるような奴はいてへんかった。 ええ年こいて、意地悪して。気を惹きたくて。こっちを向いてもらいたくて。子どもじみたことしてるってわかっててん。でもそのぶん、お前をいろんなもんから護ろうと決めたんや。結構オレなりに頑張ってやってたんやけどなぁ。いつも肝心な時にちゃんと護ってやれへんかった。お前に重たいモン背負わせてしもて、堪忍な。ごめんな。
オレがオレをやめてしまう時、お前はオレの傍におってくれるやろうか。 オレがオレをやめてしまう時、それまでちゃんとお前の事護ってれるやろうか。
オレ、昔みたいにそない簡単に生きるいうの諦めてるわけと違うんやで。結構、生きるっちゅーのに執着するようになったんや。 お前が此処に居てるからな。お前の居る世界とか、お前を護りたいんや。その為にはオレも死に物狂いで生きてへんと護られへんやろ?アホやなって笑われたってかまへんよ。真面目も大真面目なんやから。それでな、オレな。もしもお前をちゃんと護れて逝くんやったら、こんなに幸せな事無い思うねん。 たぶんそん時はオレ、きっと笑って逝ける思うねん。
スパーンと横っ面をスリッパでひっぱたかれた。 オレの部屋いっぱいに響くように鼻息荒く怒鳴り散らすひよ里をみて、オレはついにやけた顔になってしまう。 「何をニヤニヤしてんねん!うちは怒ってんねんぞ!」 せやかて、仕方ないやん? 「そうやってひよ里が怒ってくれるん嬉しいやんもん」 「お前はマゾか!」 「うん、ひよ里限定でたぶんマゾや」 「喜ぶな! 変態!!」 彼女が、困った顔をしながら怒る時は、いつもオレを心配してくれている時。それがわかるから、嬉しい。 「ほんま、しょーもない。くだらんこと言いよって」 「くだらんこと無いわ。ホンマに思ってんもん」 「しゃーから、嬉しゅうない言うねん。ハ ゲ が !」 「まぁ、そやな。オレの愛は重いもんな。わかってん、そんなん」 ちょっとしょんぼりしながら言うと、次は頭をスパンと叩かれた。 「ちゃうわ。重いとかそういうんはどうでもええねん。勝手に自己完結すんなっちゅーねん」 「どういう意味?」 「うちの気持ちは要らんのか?」 顔を真っ赤にして、ふくれっ面になるひよ里。 「自分ひとりで勝手に思って、それで満足なんか?うち、護ってもらうばっかりとかいやや。お前とはいつも対等でおりたい」 ずっと一緒で。死ぬまで一緒で。護って、護られて、支え合って生きていきたい。 「オレ、愛されてんのやなァ」 えへっと笑いながら隣に座る彼女に聞こえるように呟く。 「アホか!」 少し前叩かれた反対側の頬をスリッパでまた叩かれた。それはきっと彼女の照れ隠し。愛の鞭。 「やっぱ、あれかな?オレら赤い糸みたいなんで繋がってるんやろな」 「まった性懲りもなくアホな事を」 くだらないといった様にひよ里は息を吐く。 鬱陶しそうにオレを見て、ケッと顎をしゃくらせながら言った。 「赤い糸とかそんな可愛らしいもんやないわ。針金みたいに、たぶんそうとう丈夫なモンやで」 「良かったぁ。それなら簡単に切れへんな!繋がったままでおれるな」 「皮肉いう言葉知ってるか? 真子」 「残念でしたァ。皮肉になってへんで? ひよ里」 やっぱりヘラヘラ笑ったままのオレに付き合いきれないのかジャージのズボンの皺を伸ばす様にポンポン叩きながら立ち上がる。 「もう、ええわ! ほら、買い出し行くで!」 「えー? もうそんな時間なん?」 「えー? やない。うちよりでかい男がえー? 言うたって可愛ないわ。ボケ」 憎まれ口を叩きながらぶっきら棒に差し出された小さな手を、オレはしっかりと握る。その手を手離さないように、それから確かめるように。ひよ里はそれに答える様に握り返してくれた。
・・・しまった。平子君がついにウザい愛を振りまくようになってしまった・・・。(と、いうかネジが一本ほど飛んじゃってるというか・・・) |