もしも猿柿さんが、自分がくたばってる間の
BLEACH44巻から48巻を読んでしまったら。






「おい、ハゲ真子!ウチが市丸のアホにやられてもうてからどないなったんや!」

ついこの間まで、生死の境を彷徨っていたひよ里がエラそうオレに言いだした。

しかも、やられてもうたけどそれがなんや?と言わんばかりの攻撃的な態度。

ベッドの上仁王立ちで立ち、腕組みしている。ちょうど背の高さがベッドが上げ底の役割をしてかさほど変わらないので、いつも上目遣いで睨んでくるあの愛らしさがなかった。減点10点や。

それにしても、ちょっと元気になるとすぐにこれや。おとなしいに寝とけばええのに。

「大人しゅう寝てへん悪い子には教えませんー」

「ウチをガキ扱いすんなっていつも言うてるやろ!」

「こないなことですぐに熱うなるんがガキの証拠じゃ、ボケ。ええから早う寝ぇや」

ムキーと悔しそうに下唇を噛んで睨むも、やはり本調子ではないのであろう、いつもなら何かしらの反撃があるのだが(例えば頭突きとか、ビーサンビンタとか、飛び蹴りとか)それをせずに大人しくベッドに潜り込んだ。

よしよし。ええこや。

いつもこないに可愛らしかったらええのに。いや、それじゃぁオレが満足せぇへんか。

…ってオレ、変態サンか!!怖っ!

日ごろの習性っちゅうーのはほんまに恐ろしいな。

さて。

「ここにお前がくたばってる最中のお話が載ってる漫画があります」

「なん…やと!!!」

何かの漫画の様な科白をいいながらガバリと起き上がろうとするひよ里をもう一度寝かせる。

「お前が目ぇ覚ましてから、ずっとどないなったーってうるさいからな。せやけどオレの口からはちょっと口惜しゅうて話せれへん」

「そやな。お前も包帯してんもんな。明らかにいわされたんやろなってわかるしな」

ぷーくすくすと声を殺して笑う。お前かてあっさりやられよったくせに。人の気も知らんとっ。

「うるさいわ、ボケ。読まさへんぞ!」

「ああああ、すまんすまん。せやから読まして」

さっそくオレの手から漫画を奪い取ってそれは真剣に読み始めた。

まじまじと難しい顔をして読み進めていくひよ里。

嗚呼、きっとオレの恥ずかしいシーンとかみてんのやろな。こう、背中バッサリ斬られてもうたとことか、藍染にぷっつんしてもうた処とか。

穴があったら入りたいとはこのことやろうか。

なんて考えていたら、ひよ里が突然噴き出した。

「ちょ、なんやねん。藍染!!こんなんおかしゅうてまともに戦われへんやろ!ぶっふ―――――――!!」

「いきなし笑うな!ビビるやろがッ」

「んなことで、いちいちビビんな。がしんたれ。っちゅーかな、ほれ、これ見てみ?エリンギみたァになってんで藍染!幾ら進化の途中かてこないけったいな格好、うちやったら耐えられへん!それを真顔で受け流す喜助もおもろいわ!!!ひゃっはーっ」

「お前、原作ファンの皆さんに怒られるで」

「しゃーかて、ひゃははっ。シンジ、お前かてこの藍染みたら、なんか突っ込まんと気ぃすまんやろ?な?な?」

「当たり前や!突っ込みの血が騒いでしゃーないわ!」

でも、それをしないのが、心のひとのこ優しいオレのええとこや。それが藍染といえどもや。

やってあいつ終いには蝶々みたァになってんやぞ。年末の紅白歌合戦でも見てもうたかと思ったわ。(人のこと言えない)

あ―腹いたいと、ひとしきり笑ってからまた読み進め始めた。また時折クスクスと笑って、それから「ちっ、市丸のくそハゲがっ」と舌打ちして罵っていた。

まぁそらそうやわな。

市丸の事はな、恨みたいけど恨みきれへんっちゅーのが正直なところなんやろ。

オレかて、この持余した感情に折り合いつけんの難しいもんな。



48
巻最後のページをめくり、はぁとひよ里がため息をついた。

どうやら読み終えたらしい。

さんざん突っ込み入れながら読んでいたのだから、もう漫画の感想などないだろう。

さぁ。返してもらうでと、ひよ里が手に持っていた漫画に手を掛けようとした瞬間に、

「こんの、ドアホが――――――――ッ!」

怒鳴り声と一緒に漫画本のかどっこがオレのデコめがけてすっ飛んできた、というより刺さってきたが、正解か。よける間もなく本が刺さった場所からえげつない痛みが全身に広がった。

ひどい。ひどすぎる。一体オレが何をしたというんや。

こいつが目を覚まさん間はそれは寝る間も惜しんで看病したった程にオレ、献身的やのに。

今やって漫画を読ませたってんのに…。

「なんで、漫画本、デコに突き刺すねん。お前は」

ああぁぁ―いたたたた。痛みで涙も出てくるっちゅーねん。

「ハゲが、ハゲた事しよるからやろーが!」

「ハゲたことってなんやねん」

無茶苦茶言いよるな、相変わらず。

がっくり肩を落とす。

「なんで、とっとと卍解して藍染と戦わへんねん。がしんたれ。へたれ。つるっぱげ!」

「それしようと思ったら、一護がきたんやって。(たぶん)ある程度察したってや。こういうのは大人の事情やねん!っちゅーかつるっぱげは関係ないやろ。つるっとなんぞしてへん!はげてへん!」

「あー、はいはい。そうやな。植毛したんやもんな。そら引っ張ってもそうそう抜けへん」

「そこまですんのやったらオレ、潔う頭丸めるわ!植毛って、植毛って!!!」
でもスキヘッド、オレ全然似合わへんやろな。あ、グラサンかけたらいけるかな。
NANAに出てくるヤ○みたァな感じで…。(ほしたら、鼻ピもせな・・・)

「わめくな、やかましい。で、お前、藍染に『のんびりサンやなァ』とか抜かしよって、お前もたいがい『のんびりサン』やないか。いや、ちゃうな。おまぬけさんや!」

人の顔真似をしながら言って来るもんだからたまらない。

「アホーッ!!恥ずかしいから顔真似やら声真似やら、すんな。ついでに、植毛発言は訂正せぇぇ、ボケボケボケェェェ!!」

のぁぁぁぁ!とりあえず、恥ずかしすぎるから、その辺走りまわってきてもええやろか!

自分の声真似、顔真似されえ恥ずかしくないやつなんて居るか!(それをドヤ顔でするひよ里もすごいけど)

ひよ里が寝ているベッドに突っ伏して顔をガンガン押し当てていた。

なんでオレはこんな子好きなんやッ!アホや!オレは、アホやァぁぁ!

「ま、ええわ。そんな事よりも重要なんは、これや」

えー。中途半端に弄られてそんで、放置かオレは・・・。えげつないことしよるわ、ひよ里は・・・(涙)

でも、確かに重要なのは差し出されたのは、44巻、真ん中らへんの見開きのページ。

「ここや。ここ」

ひよ里が左隅下のコマをちんまい人差し指で、ちょんちょんと指し示す。

ドッキーン!!!

そこは、小さくもオレの顔のアップやないですか!!!しかも、鼻から口元の部分のアップ。やめて、堪忍したって!そこは弄らんで!もうHPはほとんど残ってへん!

「この、汗みたいな筋は、やっぱあれか?なみ・・・」

「ちゃう!!!」

かぶせる様に全力で否定した。

「これ、泣いてるんとちゃ・・」

「ちゃうっっ!!!汗や!冷や汗や!」

言いきる前にもう一度全力で否定した。

ふーんと、目を細めるひよ里。

「せやけどなぁ」

ごろんと仰向けに寝転がり、そのページをじろじろと眺め、もう一度オレの方を見やって

「涙の筋にしか見えへんのやけど?」

くすっと笑って言われた。

「ちゃうわ!次のページようみてみい。オレのイケてるどアップや。あんなマジな顔はそうそう拝めへんぞ。そしてよーみてみ、穴があくほどてみ。どっこにも涙の痕なんぞついてないやろが!」

怒ったように捲くし立てても、ひよ里はニヤニヤ笑ったまま。

しばしの睨みあいの末、折れたのは珍しくひよ里だった。

「わかった。そういう事にしといたるわ」

…それは折れた内にはいるんやろか?

「ほんでも、まぁ、こないに切れた顔してるお前も、珍しいな。そないにウチのことで怒ってくれてたん?」

また、ニヤついた顔で訊いて来る。

「そないに心配やったん?」
楽しんどるな。人の反応を。

まったく人の気も知らんで、よう言いよるわ。

「ちゃうわ。勝手しよったお前に腹立ててたんや」

そっぽをむいた。

ひよ里はそれに気づかずに更に茶化す。

「うそつけぇ。死ぬなーって顔やないか、こことかー」

どれだけ、オレが心配したと思ってんのや。

あははと可笑しそうに笑ったひよ里に少し腹が立つ。


「そんなに、おかしいか?」


寝ているひよ里の顔の横に両手をついて見下ろす。軽くベッドの軋む音がした。

「オレが、お前の事心配してんの、そんなにへんか?おかしいか?」

「え?あの、シンジ?」

一瞬何が起こったのかと、きょとんとするひよ里を見据える。

「死んでまうかもって思った。恐ろしかった。そんなにへんか?」

「いや、へんやないよ、へんや。うん、ごめん。茶化し過ぎた」

いつもと違うオレの様子に言い過ぎたと思ったのか焦り始めるひよ里。

その顔に、そっと手を添えた。

触れたその場所は温かくて、血が通っているのがよくわかった。

ただそれだけでどれだけオレが安心するのか、こいつは知らない。

「大事な子が死んでまうかもしれん思ったら、オレ、どないかなってまうかと思ったんやで」

諌める様に言うと怒られた子どものように、しゅんとして申し訳なさそうな顔でオレを見上げてひよ里は謝る。 

なんだかとても胸の奥がズキズキ痛んで愛おしくなって堪らずおでこにチュッとキスをした。

「ほんまに、生きててくれてよかったと思ってるんや」


頭をよぎったのは真っ二つに斬られた小さな身体。

もとから軽いこいつがあの時、抱きとめた時は更に軽くなってしまって。

斬られた場所から止めどなく溢れる血。足元に水たまりを作るように滴り落ちていた。

どんどんその顔から血の気が引いていって、痛いだろう、苦しいだろうに、息も絶え絶えに「ごめん」とこいつは言った。

無理に笑顔を作りながら。

アホやな、無理に笑いよるからデコに青筋ういとるやないか。

いつもせぇへんことするから顔、ひきつっとるやないか。

ちゅーか、今、笑うとこちゃうやろが。

アホやな、ひよ里。おまえは、ほんまに・・・っ!


あの時のことは今でも頭に焼きついていて、目を閉じれば鮮明に思い出される。

こいつの身体がもとに戻って本当によかったと、思ってる。

心には、沢山また傷を抱えてしまったやろうけど。

せやけど、生きてれば。

生きてさえいれば、きっとまた、心から笑える日がくるだろうから。


「ほんまに、悪いって思ってんか?ひよ里」

大人しくなってしまったひよ里のおでこを小突くと、バツの悪そうな顔でこちらをみて

「うん。すまん。そない、怒ると思わへんかった」

また謝った。

可愛ええな。

「いや、怒ってるわけやないけど、しゃーないな、オレは、お前には弱いしな」

「すまん」

「もう、ええって。そない可愛らしいこと言うてると、襲うてまうで」

プニプニと柔いホッぺをつまむ。

そしたら、急に赤くなって「ええよ」と小さく呟いた。

え?

えええ?

今何と言うた?「ええよ」っていうた?なぁ?あの、ひよ里が???

訊き間違い?空耳?これは夢?

女の子のめまぐるしい心境の変化にはついていけない。

「猿柿さん、ほんまに?」

コクンと小さく、でも確かに頷いた。

リーンゴーンと頭の中で鳴り響く鐘の音。(そんな勢いで嬉しいっちゅーこっちゃ)

「あ、ほんでも、今は、その、きついから」

はにかむひよ里。

「それは、わかってるわ。ほな、元気になったら」

「…うん」

指きりをした。

まるで子どもみたいな約束の交わし方。

生きてさえいれば、本当にええことあるわ。

おおきに。ありがとう、神様。信じてへんけど!

逸る気持ちを抑える事が出来なくって、もう一度オレはひよ里にキスをした。




――――――――――――――



おまけ。

「なぁ、一護のトーチャン、もしかして零番隊とか言わへんよな」

「わっからへん。でも、あの腕の隊長羽織の切れっぱしみたいなんは気になる」

「ちゅーか、うちら今後、出番あんのかな?」

「オレ、一コマだけ出たで。53巻で。回想的な感じやったけど。どや、ええやろ?」

「ほんまか!ウチらニコイチとちゃうんけ!」

「これも、大人の事情や。しゃーない。本誌で活躍できるように祈っとこな」

「うん」



<<終>>




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一度書いてみたいネタでした。
かけてよかった!ひよ里が元気になるまでウザいくらいに傍に居そうな真子が想像すると胸が痛いっす!
真子はひよ里が全てって云うくらいにベタ惚れだと嬉しい。
ちなみに、ひよ里が言ってたことは全部私が単行本を読んだ時に思ったことです!ごめんね。藍染たん!
あの、44巻の真子の涙の筋みたいなのは、やっぱり汗なのかな。
泣いて欲しい。泣いてて欲しい。男の人が堪え切れず泣く姿って萌えます。燃えます。あと、一心くんは零番隊だと嬉しいな。曳舟隊長こい!(すみません、また暴走・・・)